喫茶タンジールでのこと そのⅠ

 僕の高校時代のことだが、電車通学で高校に通っている女の子と友達になった。明るいようで暗いような、奇妙な子だった。
 少しやせぽっちで、髪は長くしていて、スカートも長めにしていた。
 背が標準より高いし、落ち着いた感じがするので、同じ年の女の子と比較すると年上に見えた。
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 僕の学校は県内一の進学校で、高校に入った時から大学の進路指導が始まるような学校で、しかしそれでいて女生徒の服装は私服でという、もう大学と同じような雰囲気のする学校だった。
 僕はこの学校の校風になかなか馴染めず、まあ落ちこぼれにはならないが、そうしっかりした成績の学生という訳でもなく、どちらかといえば、クラブ活動を生きがいに高校生活を送っていたような学生であった。

 クラブを終え、空腹感をしばしの間抑えるため学校近くのコンビニへ入ろうとした時、中から勢いよく出てきた女性とおもいっきりぶつかってしまった。
 彼女は声を出して倒れ、僕もその上に重なって倒れてしまった。
 「気をつけてよ、この馬鹿」、始めて聞いた彼女の第1声だった。
 彼女は僕をにらむと、そのままコンビニを飛び出して行った。

 僕は申し訳ない気がして、彼女の後を自転車で追って行った。彼女は急ぎ足で、500m程離れた駅に向って歩いていた。
 僕は、「そんなに怒るなよ、駅まで送るよ、乗れよ」と彼女に言った。彼女は僕と同学年で違うクラスだったが、フェンシング部に入っていて、電車通学をしているくらいは知っていた。
 彼女は嫌がっていたが、僕は悪かったと思っていたのでおわびの意味で、駅まで無理やり送って行った。
 駅の前まで来ると「ここでいい。」と彼女は言って、駆け足で駅へ向かい、ホームで待っていた電車に乗った。
 女の子を載せての自転車の二人乗りは、その時が初めてだった。


 次に彼女に会ったのは、梅雨に入ったばかりの憂鬱な月曜日の日だった。
 また学校を終えての帰り道で、僕は雨の日には歩いて学校に行くことにしていた。彼女は僕と目が会うと、「ちょっと付き合わない」と僕に声をかけて来た。
 「どこまで?」僕は訪ねた。
 「そこの茶店まで、少し息抜きしたいんだ。」彼女は言った。
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 タンジールという名の喫茶店に入ると、彼女は「お酒飲もうか?」と僕に言ったが、冗談と思って取り合わなかった。

 そっちは私服だけどこっちは制服、それに少し目や唇を大人っぽく演出するのがその頃の我が高校の女生徒の流行だったので、大人びていた彼女は、そのあたりのOGといくらも変わらなかった。

 彼女は、最新の音楽の話や前衛的な文学や芸術の話しなどを、喉がカラカラに渇いた人間が息もつかずに水を飲み込むように、次から次と話し始めた。
 僕はほとんど彼女の言っている意味の半分も理解してなかったが、ただ、彼女の情熱に満ちた瞳の輝きに魅了されて、「ああ」、とか「そうだね。」というような、いいかげんな返事をしていた。

 「私ね、お母さんいないんだ、アル中の親父と二人暮らしなんだ。それで、アル中の相手毎日してるから、時々病気のようになるの。」
 「おかしいんだよね、時々言ってることが、やってることもおかしくなるんだよね。」

 僕はこの時、初めて彼女の境遇のほんの一部に触れた。
 アル中の父親との二人暮らし、それは僕の想像を遙かに超えた世界のようだった。
 その後、彼女は症状が重くなると僕を誘い、僕はたわいも無い彼女の独演会に付き合ってやった。

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