「日本最長10河川の旅」での釣り 山女釣り師の聖地「内山節の上野村」への旅 その2(k)

 車は峠を、上野村に向かって降りていく。 
 昇る時と同じくらい苦労して峠を降りて行き、しばらくすると、右手に絶好のポイントを有する沢の流れが始まった。
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 ここで降車して、ぶどう峠の方を振り返った。 
 今来た道を少し戻って左折すると、その道は御巣鷹の尾根に続く。 
 1985年8月12日に日航ジャンボ機(JAL123便)が群馬県上野村御巣鷹山に墜落した事件は有名で、今でも慰霊の方などでこの方面に人が入っているようである。 
 
 僕は渓流釣り師なので、ここからもう少し下って、林道横を流れる沢に入った。
 今日最初の1投を、大石の下の淵に入れた。
 淵の深さは1m程度だろうか。
 何回か場所を換えて餌を投入したが、反応はなかった。
 淵を上へ換え、下へ換えしている内に、10cmに満たない山女が掛かってきた。
 この山女を最初に、20分程の間に5~6匹のやはり10cmに満たない山女が掛かった。
 1ケ月ぶりに山女を釣り上げたので、型の大小の問題なく、満足感が身体全体に広がった。
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 この沢の名前は中ノ沢と言い、県境越えの林道沿いに上野村を下っていく。
 この他に野栗沢、黒川、北沢、大神楽沢、湯の沢、塩ノ沢、楢沢などがあり、神流川に流れ込んでいる。

 僕は釣りをいったんやめ、再度車に乗って、神流川源流の浜平を目指した。
 浜平、そこは内山節が半農民として二十年以上も生活した部落であり、彼の常宿とした奥多野館の建っている所でもある。
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 本来ならば、僕は奥多野館に宿泊し、浜平の渓流を清冽に流れる山女を釣るはずだった。
 ところが奥多野館は今年から鉱泉宿を廃業したという。
 先日電話で予約しようとしたが、相当年配の方が電話口に出られた。
 宿の主人の高橋真一さんだなと想像した。
 高橋真一さんであれば87歳の方である。
 「今年は、客は取らない、宿はやめた。」と言われた。
 僕はがっかりしたが、そういうことならしょうがないと思った。 宿をやめた理由も聞かなかった。

 長い歴史のある鉱泉宿で何が起こったのか知りたかったが、上野村での宿泊は残念ながら内山節の常宿ではなく、塩ノ沢の国民宿舎「やまびこ荘」ということになった。
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 奥多野館の家族は、真一さんの妻の「さとさん」、それに子どもの「強さん」の3人と内山節の著書には紹介されていた。
 奥多野館の家族や浜平の人々に、僕はこの旅で会いたかった。
 会って、内山節の著作の世界の人々を自分の目で確かめて見たかった。
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 この奥多野館の奥さんの「さとさん」は、1995年の東大の入試問題にも実名で出ている。

 僕は車を浜平に向かって進めた。
 その途中で、道を教えてもらった工事の関係者に、この奥へ行っても魚はいないと言われた。
 新しく道路を布設した場所に、冬期間の間凍結防止剤を撒いたところ、薬剤が川に混入し、渓魚が大量に死んでしまったというのだ。
 魚は急速に減り、その関係で、奥多野館もとうとう休館してしまったのだという。
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 この奥多野館は、長い間、釣り客と内山節の交流の場となった。
 釣客が主な泊り客であれば、そうなるのは自然のなりゆきであろう。
 鉱泉宿のなくなった、集落の中心を失った浜平へと、僕は車を向けた。
 そして、浜平の集落に辿り着いた。

 浜平は沢沿いの戸数8個の小さな集落で、奥多野館の薄汚れた看板だけが目立つ集落だった。
 集落の入り口に車を停め、釣りの準備を始めた。
 奥多野館へ行くのは最初から考えていなかった。
 浜平のイメージを壊してしまうような気がしたからだ。
 浜平集落そのものも、僕の勝手に描いていたイメージとは大幅に違っていた。
 何かが足りなかった。
 もしかすると、もう内山節はもう何年も、この集落に来ていないのではないかとも思った。
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 内山節は、きっと集落の人々にとっては「毎年めぐり来る季節」にも似た存在ではないかと。
 その毎年必ず来る季節が来なくなり、どこかが少しずつ違って来た。
 村人にとって大きな花が、もう咲かなくなってしまった。
 そんなイメージが、この集落に漂っていた。
 村人の大きな支えが、村人の大きな糧がなくなった。
 勝手にそんな想像をしてみた。

 僕は浜平集落のすぐ脇を流れる沢の淵に餌を入れた。
 想像したとおり反応は無かった。
 20分程、どこにでもあるありふれた淵に棹を向け、浜平を後にした。
 昔は聖地だった場所での釣行は、こうして終わった。 

 後日談ですが、実は内山節は毎年ここに来ていて、12月末には浜平の自宅前で餅つき大会を主催しています。
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参考書として追加です!!
①上野村シンポジウム 内山節さんにインタビュー

②「里」という思想

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